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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)10251号 判決

原告 相田裕司 ほか三名

被告 日本電信電話公社

代理人 玉田勝也 池田春幸 ほか六名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  当事者の関係及び本件各処分の存在

1  請求原因たる事実関係

請求原因1及び2記載の各事実は、当事者間に争いがない。

2  原告らの職員歴及び組合役職歴

原告らの昭和四三年四月及び五月当時の勤務部署及び組合での役職が別紙原告ら一覧表の「勤務部署」欄及び「組合での役職」欄に記載のとおりであつたことは、当事者間に争いがないが、ここで原告らの職員歴及び組合役職歴の概略について見ると、<証拠略>によれば、次のとおりであつたことが認められる。

(一)  原告相田

原告相田は、昭和二三年三月被告の前身である逓信省の東京電気通信工事局に入り、同二六年から東京九段電話局に、同二九年七月から荻窪局に勤務していた者であり、全電通では、昭和二五年から職場委員になり、同三〇年に荻窪分会執行委員(一年)に、同三一年に新宿支部執行委員(一年)に、同三二年に荻窪分会書記長(二年)に、同三四年に同分会分会長(八年)に、同四二年に同分会副分会長(一年)にそれぞれ選任され、同四三年には新宿支部特別執行委員になつている。

(二)  原告高倉

原告高倉は、昭和二一年に被告の前身である逓信省の東京普通逓信講習所に入り、同二二年から東京中央電信局に、同三七年から新宿電話局に、同四〇年から荻窪局に勤務していた者であり、全電通では、昭和四二年に荻窪分会執行委員(一年)に、同四三年四月一日に同分会書記長(一年)に、同四四年に同分会分会長(五年)に、同四九年に東京地本会計監査にそれぞれ選任されている。

(三)  原告森崎

原告森崎は、昭和三九年四月被告公社に入り、以来荻窪局に勤務し、同五〇年三月に新宿電報電話局に転勤した者であり、全電通では、昭和四二年に荻窪分会執行委員(二年)に、同四四年に同分会書記長(一年)に、同四五年に同分会執行委員(一年)にそれぞれ選任されている。なお、同原告は、昭和四三年四月当時は、分会の組織担当の執行委員であつて、分会執行部の取りまとめ、分会組織の運営指導等の任務を担当していた。

(四)  原告大野

原告大野は、昭和三七年四月被告公社に入り、同年七月から荻窪局に勤務し、同五〇年一月に城東電話局に転勤した者であり、全電通では、昭和四一年に荻窪分会執行委員(一年)に、同四三年九月に新宿支部青年常任委員(二年)に、同四五年に荻窪分会書記長(一年)に、同四六年に同分会執行委員(一年)にそれぞれ選任されている。

二  本件各処分の前提となつた事実関係

1  被告の法的性格、機構及び業務

(一)  被告の法的性格

被告は、抗弁1の(一)で主張するような目的の下に公社法によつて設立された法人であつて(公社法第一条、第二条)、その資本金は全額政府の出資とされ(同法第五条)、郵政大臣の監督を受けていること(同法第七五条、第七六条)、その業務の運営は内閣が両議院の同意を得て任命する委員によつて組織される経営委員会の決定に服し(同法第九条ないし第一八条)、その総裁及び副総裁は内閣が経営委員会の同意を得て任命すること(同法第二一条)、その予算は閣議の決定を経たうえ国会の議決を受け(同法第四一条、第四八条)、その会計は会計検査院の検査を受けなければならないこと(同法第七三条)、その職員の任用基準、給与基準その他の勤務条件、懲戒、服務基準等は法定されており(同法第二九条ないし第三四条)、その役員のみならず職員も罰則の適用に関しては法令により公務に従事する者とみなされること(同法第一八条、第三五条)、その職員の労働関係に関しては公労法の適用を受けること(同法第三六条、公労法第二条、第三条)、更に被告は、その業務の運営や料金の決定等について公衆電気通信法その他の法令による厳格な規制を受けていることは、関係法文上明らかである。

なお、<証拠略>を総合すると、被告の行なつている公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務は、政治、経済、文化その他のあらゆる領域にわたり情報の迅速、正確、安全な伝達ないし交換の要求される現代において、国家ないし社会の中枢神経ともいうべき極めて重要な役割を果しており、高度の公共性を有するものであること、従つてまた、その業務の停滞は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、または、そのおそれのあることが認められるが、右に述べたような被告の法的性格は、被告の業務のこのような高度の公共性に基づくものであるとともに、その公共性を増進し、擁護する機能を果しているものというべきである。

(二)  被告の機構

被告の機構として、東京都に置かれる本社の下に、抗弁1の(二)記載のとおりの各機関があることは、当事者間に争いがない。そして、被告の主張するとおり、以上の各機関は、全国津々浦々にわたつて張り巡らされている公衆電気通信網の網の結び目としての役割を分担しているため、それぞれが単独で孤立していては有効に機能することができず、それらの全体が有機的一体性を保持しつつ各自の業務を遂行することによつて、はじめて公衆電気通信業務の完全な提供が可能となるものであること、従つて、仮に一つの現場事業所の業務だけが停止された場合であつても、その影響はその事業所の所在地域内だけにとどまらず、非常に広範囲に及ぶおそれがあることは、右(一)に掲記の各証拠により明らかである。更に右各証拠によれば、被告の電報電話局等の各現場事業所には、それぞれ、電報の受付、配達、電話の交換、案内等の業務を担当する電報電話運用部門、電話の新規加人、移転、名義変更等の受付、電話料金の請求、収納、その他の営業業務を担当する電話営業部門、電信電話網を構成する各種の線路施設や交換施設等の新設、移転、交換、保守、障害修理、電気通信設備に必要な電力施設の運転、整備、その他の保全業務を担当する保全部門、計理、庶務等を担当する共通部門等が置かれていて、それぞれの業務を分担していること、昭和四三年四月当時における被告の職員数は二五万五一七三名であつたことも認められる。

(三)  被告の業務

(1) 被告の行なつている公衆電気通信業務を形態的に分類すると、抗弁1の(三)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、昭和四二年度末における加入電話加入数は約一〇三一万(そのうち一般加入電話加入数は約九八九万)、公衆電話数は約三二万、加入電信加入数は約二万一八〇〇、専用線回線数は約一四万七〇〇〇回線であり、同年度内における加入電話新規申込数は約一七一万、電話増設数は約一四〇万、電報取扱通数は約七八〇〇万通であつたこと、右数字は、電報取扱通数を除き、その後も年々増加していること、データ通信サービスは昭和四三年度から開始されたことを認めることができる。なお、被告は、公社法(第三条)に基づきこれらの業務を行なつているものであつて、その業務の運営について、公衆電気通信法その他の法令による厳格な規制を受けていることは、前記のとおりである。

(2) 更に、<証拠略>によれば、被告の行なつている公衆電気通信業務は、非貯蔵性(電信電話サービスは、一般の商品やガス、水等のような貯蔵性がないので、需要があつてはじめて生産しなければならない。)、即時性(電信電話サービスは、迅速性が特に要求され、需要のあつたときに即時に供給しないと財としての価値が激減する。)、広域性(電信電話サービスは、通信圏が拡大するにつれて効用が高まり、効用が高まるにつれて利用者も増加する。)という特質を有すること、そこで、このような特質を完全に発揮するためには、厖大、複雑な電信電話施設(これを機能的に分類すると、電話施設、線路施設、搬送施設、無線施設、電信施設、データ通信施設、電力施設等となる。)を必要とすること、そして、これらの施設の設置、保全、管理、運用等に当つては、高度の技術と豊富な経験を有する多数の職員を必要とし、そのような技術ないし経験を有しない者をもつて代替することは甚だ困難であること、更に、機械の自動化や業務の一部の外注化が進んでも、被告の職員の行なつている業務自体の重要性はいささかも減少しないこと、但し、機械の自動化、特に電話のダイヤル化などは年々進んでおり(例えば、昭和四二年度末の電話のダイヤル化率は九一・五パーセントであつたが、昭和五三年度末には一〇〇パーセントに達する見込みである。)、その結果、電話の利用者等に対する関係では職員のストライキ等による直接の影響は年々減少していることが認められる。

2  荻窪局の業務

抗弁2の(一)及び(二)記載の各事実のうち、荻窪局が東京電気通信局管内、新宿地区管理部管轄下にある現場事業所であつて、杉並区内の一部の電報電話サービス業務を担当していること、同局の昭和四三年四月現在の組織として、局長、次長の下に、被告主張のとおりの一一課があつたこと、その各課の業務内容が被告主張のとおりであること(但し、試験課が一一〇番、一一九番の緊急通話の試験の業務を担当しているとの点を除く。)は、いずれも当事者間に争いがない。そして、右の争いのない事実と、<証拠略>とを総合すると、昭和四三年三、四月当時の荻窪局の概要及び同局の各課の業務内容は、すべて被告が抗弁2の(一)及び(二)で主張するとおりであつたことが認められる。

もつとも、<証拠略>によれば、被告の職員の勤務には、早勤服務(午前七時から午後一時まで)、日勤服務(午前八時から午後四時まで)、中勤服務(正午から午後八時まで)、夜勤服務(午後二時から午後一〇時まで)、深夜勤服務(午後一〇時から翌日の午前六時まで)、宿直宿明服務(午後四時から翌日の午前八時まで)のほか、一昼夜交替服務、分断服務、交替服務、常日勤服務等の種別があり、また、業務の都合により、始業時刻及び終業時刻の繰り上げ及び繰り下げ等も行なわれているため、平常時においても、被告公社に在籍する職員全員が同時に一斉に勤務に就くものではなかつたことが認められる。そのため、昭和四三年四月二五日当時荻窪局に在籍する全電通所属の組合員数は一八六名であつたが、このうち同日の始業時(この時刻も人によつて異なる。)から正午までの間に同局の業務に従事すべき者は一三〇名であつた(これらの人数は、いずれも当事者間に争いがない。)。

3  全電通及び荻窪分会

(一)  全電通の組織

全電通の組織が抗弁3の(一)記載のとおりであつたことは、当事者間に争いがない。

そして、<証拠略>によれば、全電通の組織に関して、次の各事実が認められる。

(1) 全電通の全国的な議決機関としては、全電通の最高の議決機関である全国大会と、それに次ぐ、議決機関である中央委員会とがあり、前者は、代議員、中央本部役員、地方本部執行委員長及び地方本部書記長で構成され、後者は、中央委員、中央本部役員、地方本部委員長及び地方本部書記長で構成される。そして、前者は、原則として毎年一回開催され、後者は、原則として毎年三回開催される。

(2) 全電通の中央本部には、組織の団結力を保持するために全体を指導統制する任務と責任を有する中央執行委員会が置かれ、中央執行委員長、副中央執行委員長、書記長、財政局長、中央執行委員をもつて構成される。そして、中央本部の役員としては、以上の中央執行委員会の構成員のほかに、会計監査が置かれ、それらの役員は、それぞれの役職に応じた任務と権限を有している。

(3) 全電通の地方本部、支部及び分会にも、それぞれの議決機関として大会、委員会等が置かれ、また、それらの執行機関として執行委員会等が置かれている。そして、それらの執行委員会は、執行委員長、副執行委員長、書記長、執行委員等の役員で構成されるが、これらの役員は、それぞれの役職に応じた任務と権限を有している。

(4) 全電通においては、昭和四三年以前から、職場組織すなわち分会が全電通のすべての運動ないし闘争の基盤であつて、全電通の機能の強化、充実を図るためには何にも優先して分会組織の整備、分会活動の強化を実現しなければならないことが長期運動方針として強調されており、そのためには分会執行部に最も有能な活動家を配置する必要のあることが要望されている。

(二)  荻窪分会の組織及び同分会役員の任務

荻窪分会の組織及び同分会役員の任務ないし権限が抗弁3の(二)記載のとおりであつたことは、当事者間に争いがない。

なお、<証拠略>によれば、全電通の各分会には、分会の組織の運営と活動を指導するために執行委員会及び職場委員会が置かれていること、そして、分会執行委員会は、分会長、副分会長、書記長、執行委員及び会計監査をもつて構成され、次のとおりの任務を負つていることが認められる。

(1) 分会における組合員を代表するとともに、組合員を掌握し、職場の組合活動と団結をより強め、組織の決定及び決定に基づく指令の徹底とその確実な実践を行なう。

(2) 支部に対し、常時、分会内の動向、集約した要求、意見等を報告するとともに、情勢の報告、活動の指導を求め、組合員の指導を行なう。

(3) 組合費を自主徴収できる体制を早急に確立し、組合が決定をしたときは、迅速、正確に徴収を行なう。

(4) 職場交渉、苦情処理を責任をもつて実施する。

(5) 職場ニユースを発行する。

(6) 闘争連絡、電話情報等をもつて伝達される情勢や闘争の推移を遅滞なく組合員に周知させる。

(7) 共済活動などの世話役活動を積極的に行ない、分会の財産管理の責任を負い、その他支部の指導に基づいて活動する。

更に、<証拠略>によれば、全電通発行の活動家手帳の職場活動の手引の中には、「分会の性格」として、「分会は、支部に直結し、日常の職場活動を行なうことを目的とした職場組織であつて、その活動は分会執行委員会の指導によつて小さな団結体(班長、職場委員など)が中心になつて行ない、全電通のすべての闘いの基盤となるものである。」ことが規定され、「分会のもつ機能」として、「分会には二つの機能がある。一つは執行委員会がもつ機能で、分会における組合業務執行の最高の責任をもつ。一つは職場活動で、小さな団結体(班長、職場委員など)が活動の中心になる。分会執行部のもつ機能とは、指導的立場で、闘いの基盤としての分会の統一と団結をつよめるのが任務であり、〈イ〉組合員の要求をまとめて団体交渉を軸として職場闘争をおこし、指導する。〈ロ〉全組織として闘われる闘争を指導する(上部よりの指令、指示を完全に遂行する。)〈ハ〉職場活動を集約し、分会全体の行動として推進する。〈ニ〉組合員に対し、労働者教育を行なう。」ことが強調されていることを認めることができる。

(三)  指令、指示権

<証拠略>によれば、指令、指示権は、組合における組織運営のために認められる基本権能の一つであつて、全電通においては、その権限は原則として中央執行委員会に付与されていること、中央執行委員会は、全国大会または中央委員会の決定に基づく業務執行のためにこの権限を行使するものであつて、具体的には、中央執行委員会の決定に基づき中央執行委員長が指令または指示の形式でこれを発出すること、例外としては、中央執行委員会はその権限の一部を地本執行委員会等にも委任することができること、指令は、実力闘争戦術に関する中央執行委員会の基本的意思決定を各下部組織及び各組合員に示すために発出されるものであり、また、指示は、指令実施のための具体的行動または指令に定める行動以外の行動を命ずるために発出されるものであること、闘争期間中は、指示が闘争連絡という形式で発出されることもあることが認められる。

なお、付言するに、指令、指示権が右に述べたとおり組合における組織運営のために認められる基本権能の一つである以上、指令または指示を受けた各下部組織及び各組合員がこれに拘束され、これに従う義務を負うことは当然である。しかしながら、その指令または指令が国の法令等に違反することが明らかである場合には、これを受けた各組合員がこれに拘束されるいわれのないこともまた明らかである。

4  全電通の昭和四三年の春闘

(一)  総評及び公労協の取組み

<証拠略>によれば、抗弁4の(一)の(1)及び(2)記載の各事実はすべてこれを認めることができる。

そして、<証拠略>によれば、昭和四三年四月一二日に開催された公労協と交運共闘との統一ストライキ宣言中央総決起大会には、全電通の西南支部所属の組合員約一〇〇〇名が参加していることが認められ、また、<証拠略>によれば、同日右大会において発表された統一ストライキ宣言によるストライキのスケジユールは、「第一波、四月二〇日、二一日、第二波四月二五日、さらに解決しない場合は、第三波(公労協は四月二七日)をもつて、半日から二四時間のストライキを反復決行する」というものであつたことが認められる。

(二)  全電通の取組み

(1) 抗弁4の(二)記載の各事実のうち、次の各事実は、当事者間に争いがない。

(イ) (二)の(1)記載の事実のうち、全電通が昭和四三年二月一七日から同月一九日にかけて開催された第五一回中央委員会において春闘における賃金引上げの要求額を一万二〇〇〇円とすることなどを決定し、同月二一日被告に対し被告主張のとおりの要求書を提出したこと、これに対し、被告が三月五日に被告主張のとおりの回答をしたこと、その後被告と全電通との中央交渉がしばしば行なわれたこと。

(ロ) (二)の(2)記載の事実のうち、全電通が三月二一日にその各下部組織に対し被告主張のとおりの内容の指令三号を発したこと、この指令を受けた各下部組織がその指令に基づく大衆行動を展開したこと。

(ハ) (二)の(3)記載の事実。

(ニ) (二)の(4)記載の事実のうち、被告が四月八日の中央交渉においてその主張のとおり述べたのに対し、全電通が被告主張のとおり述べて団体交渉を打ち切り、四月一〇日公労委に調停の申請を行なつたこと、被告が四月一八日全電通に対し被告主張の内容の警告書を手交し、東京電気通信局長が同月一九日東京地本委員長に右と同趣旨の警告書を手交したこと。

(ホ) (二)の(5)記載の事実のうち、公労委が四月一二日と一八日に当事者双方から事情聴取を行なつたこと。

(ヘ) (二)の(6)記載の事実。

(ト) (二)の(7)記載の事実のうち、全電通が四月二四日各下部組織に対し被告主張のとおりの内容の指令五号を発したこと、これに対し、被告及び東京電気通信局長が右同日全電通及び東京地本委員長に被告主張のとおりの内容の警告書を手交したこと。

(チ) (二)の(8)記載の事実のうち、公労委が四月二四日調停委員会を開いたこと、全電通が四月二五日午前六時三〇分に闘争連絡九九号をもつて全国の一一拠点、一九事業所を指令五号にいう別途指令する職場に指定し、同日始業時から正午までのストライキに突入させたこと、同日のストライキの拠点局所に指定された拠点及び事業所が被告主張のとおりであつたこと。

(リ) (二)の(9)記載の事実。

(2) 以上の各事実と、<証拠略>とを総合すれば、抗弁4の(二)の(1)ないし(9)記載の各事実をすべて認めることができるほか、次の各事実を認めることができる。

(イ) 全電通は、昭和四一年春闘終了の前後から、被告との間で、従前に行なわれた組合員に対する懲戒処分による実害問題及び将来における労使関係の基本問題の解決方法について非公式の話合いを重ねた結果、同年六月二五日、最終的な意見の一致に達し、両者間で、〈1〉全電通側は、従来のパルチザン闘争を中止し、重要問題は実力行使をしないで団体交渉や話合いで解決を図ること、〈2〉被告側は、従来の処分は徹回しないが、一般参加者の昇給延伸の実害を回復することなどを骨子とする了解事項(いわゆる六・二五了解事項)について合意し、同年七月四日から開催された第一九回定期全国大会において、その承認を得た。そして、この合意は、労使間の重要問題の解決については団体交渉を重視しようという考え方を基調とするものであつた。

(ロ) しかるに、右了解事項の合意については、これを承認した第一九回定期全国大会の当時から全電通組合員の間にこれに反対する意見が強かつたため、昭和四二年六月二九日から七月三日にかけて開催された第二〇回定期全国大会において、早くも、「本年度組織強化の基本目標に六・二五了解事項を破棄できる組織体制をめざすことを第一と」する旨の大会宣言がなされ、同大会で示された同年度(但し、昭和四二年七月一日から同四三年六月三〇日までの組合年度)の運動方針の中で、大衆行動とストライキの重要性が強調されるとともに、同年度のストライキ戦術の規模については、「全員ストライキ体制を前提とした、拠点ストライキ方式」を採用することが明らかにされ、これに基づき前記認定の第五一回中央委員会の決定等がなされるに至つたのである。

(ハ) 全電通を除くその余の公労協所属の各組合は、昭和四三年一月二一日開催の公労協全国代表者会議での意識の統一に従い、それぞれ各当局との自主交渉を行なつた後、同年三月一六日に国労が公労委に対し調停の申請をしたのをはじめとして、同月一九日までの間にいずれも公労委に対する調停の申請を行なつた。そして、右の各調停申請を受けた公労委は、同月一九日に定例総会を開いて、各調停委員会を発足させ、同月二六日以降、各当事者からの事情聴取を開始した。ところが、全電通のみは、前記のとおり、同年四月八日まで自主交渉を継続したうえ、同月一〇日に至り、公労委に対する調停の申請を行なつたのである。しかしながら、全電通も、他方では、前記のとおり、右調停申請の以前にすでに、ストライキ態勢確立のための指令三号を発出するとともに、ストライキ批准の一票投票を終了しており、更に、右調停申請と同日の四月一〇日には、右指令三号に基づく大衆行動を徹底して実践するようにとの闘争連絡を発するとともに、その二日後の同月一二日には、公労協と交運共闘との統一ストライキ宣言中央総決起大会に参加している。

(ニ) ところで、四月二五日のストライキについては、交運共闘に属する私鉄大手組合の春闘が同月二一日に妥結の機運を見るに至つたことなどから、同月二二日から二四日に至る段階において、公労協所属の一部組合から、同月二五日のストライキを予定どおり決行しても効果があるかどうか疑わしい、ストライキの日程を再検討すべきであるなどの意見が出て、公労協所属の組合間の意見が対立した。しかし、全電通は、四月二五日のストライキを放棄すれば、同月二七日の統一ストライキは公労委の仲裁に移行するだけに終る危惧があると判断して、同月二五日のストライキを決行することを主張し、これを予定どおりに実施した。これに対し、その余の公労協所属の各組合は、それぞれ同日のストライキの戦術規模を縮小している。

(ホ) 全電通が闘争連絡九九号をもつて四月二五日のストライキの拠点局所に指定した、全国の一一拠点、一九事業所は、別紙拠点局所一覧表の「拠点及び事業所名」欄記載のとおりであるが、これらのうちの一一事業所は、いずれも右ストライキの当時職員約一一〇名ないし三五〇名を擁する各地域での重要電報電話局であり、また、その余の事業所は、職員数は約一〇名ないし二〇名程度の少数であるが、いずれも重要な電話または無線の中継所であつた。従つて、ストライキによつてこれらの各事業所の業務が停滞すれば、その影響はその事業所の所在地域内だけにとどまらず、かなり広範な範囲に及ぶおそれがあることは明らかであつた。なお、これらの拠点、事業所における四月二五日のストライキは、後記認定の荻窪局におけるストライキとほぼ同様の態様で実施された。

(ヘ) 全電通は、四月二五日のストライキについては、当初から、被告当局に大打撃を与えるという目的で、拠点の事業所は電報電話局の中で大きいところを狙い、しかも、その指定発表は突入直前とする旨の戦術方針を採つていたため、指定拠点名は、ストライキ実施当日の午前六時三〇分に闘争連絡九九号を発するまで、被告ないし拠点事業所に対してはもちろん、拠点分会ないしその組合員に対してすら全く秘密にしていた。従つて、被告は、右闘争連絡発出後の同日午前六時三五分ごろ全電通中央本部から電話による指定拠点名の通告を受けるまで、どこが拠点事業所になるかを確知することができなかつた。この意味において、四月二五日の全電通のストライキは、一種の抜き打ちストライキとしての性格を有するものであつた。

因みに、全電通以外の公労協所属各組合の四月二五日のストライキに関する闘争拠点の指定状況について見ると、国労は四月二四日に、動力車労組は同月一九日に、全専売は同月一五日に、全逓は同月二四日に、全印刷、全造幣及びアルコール専売は同月一六日から二三日までの間に、それぞれの拠点事業所名を明らかにしており、全電通のようにストライキの当日までその拠点名を秘密にしていた組合はなかつた。

(ト) 更に、全電通は、右ストライキの抜き打ち性を一層完全なものにするため、事前に拠点事業所を探知して対策を立てようとする被告側を煙に巻く陽動作戦を採つた。そして、この点につき、昭和四三年四月二七日の全電通(全電通の機関紙)は、大宮局所(関東)でのストライキに関し、「大宮が拠点に指定されたことを事前に知つていた者は一人もいない。公社もそれを探ろうとヤツキになつていたようだ。関東の専従者たちは、午前四時半皇居前に集まり、四台のバスに分乗。西に東に走るバスに五台から六台の公社の車が、ピツタリとマーク。しかし、これは組合の陽動作戦で専従者の一行は公社側を煙にまいて拠点大宮に向い、ビケ隊に合流した。」と述べて、右作戦の成功を誇示している。

(チ) なお、公労委は、四月二七日未明、前記の調停委員長見解を示したが、調停案の作成につき当事者双方の同意を得ることができず、結局、調停は不調となり、全電通と被告との間の賃金紛争は、その他の公労協所属の各組合と各当局との賃金紛争とともに、公労委の仲裁に移行した。そして公労委は、その後、仲裁委員会を開いて合議を重ねたうえ、五月一〇日、全電通に関しては、「〈1〉被告の職員の基準内賃金を、昭和四三年四月一日以降、一人当り同日現在における被告職員の基準内賃金の七パーセント相当額に四〇〇円を加えた額の源資をもつて引き上げること。〈2〉この源資の配分については、労使間の協議によつてすみやかに決定すること。〈3〉最低賃金の問題については、労使間においてさらに検討すること。」という内容の仲裁裁定を行なつた。この裁定で示された賃金引上げ額は、前記の調停委員長見解と同内容のものであつたが、ここに全電通と被告との間の昭和四三年春闘段階での賃金紛争は一応の決着を見るに至つた。

(三)  四月二五日のストライキによる業務阻害

(1) 抗弁4の(三)記載の事実のうち、被告が全電通のストライキに先立ち何回か警告を発したこと、四月二五日のストライキには全国の一一拠点、一九事業所で全電通の組合員が始業時から正午まで就労しなかつたことは、当事者間に争いがない。そして、これらの事実と、<証拠略>とを総合すると、四月二五日の全電通のストライキによる業務阻害の概況は、ストライキ参加人員の点を除き、抗弁4の(三)記載のとおりであつたことを認めることができる。

(2) そこで、四月二五日の全電通のストライキへの参加人員について見るに、その参加人員につき被告は一四四八名であつたと主張するのに対して、原告らは一五一七名であつたと主張しているところからすれば、これが一四四八名から一五一七名までの間であつたことは間違いがないと認められる。しかし、本件全証拠の中で右参加人員に関する拠点及び事業所別の唯一の統計的資料であると認められる<証拠略>は、そのうちの橿原局所(近畿)関係の人員が弁論の全趣旨に照らしてにはかに採用することができず(例えば、被告提出の昭和四八年八月二〇日付準備書面によれば、橿原局所関係の一般組合員のストライキ参加人員だけでも一一六名となつており、<証拠略>の同局所関係のストライキ参加人員一一四名よりも多くなつている。従つて、この一一四名という数字には疑問が生じる。)、その他にこの人員を確定するに足りる証拠がない。従つて、結局、四月二五日の全電通のストライキ参加人員についての右認定以上に正確な数字はこれを確定することができない。

(3) もつとも、<証拠略>の数字も、橿原局所以外の拠点局所関係の数字は、弁論の全趣旨に照らしてほぼ信用することができるので、これにより、四月二五日のストライキの拠点及び事業所別の同日午前中の就業予定者人員及びストライキ参加者人員を見ると、その橿原局所関係以外の各人員は、別紙拠点局所一覧表の「四月二五日午前中の就業予定者人員」欄及び「同日のストライキ参加者人員」欄各記載のとおりであつたか、または、それに近い人員であつたと認めることができる。

(4) しかしながら、四月二五日の全電通のストライキ参加者の正確な人員が何名であつたにせよ、一四四八名以上もの全電通組合員がこれに参加したことは、当事者間に争いがないから、この人員と、前記認定のストライキの拠点、時間、態様等とを総合して判断すると、同日の全電通のストライキによる全国的な業務阻害の状況は、右(1)で認定したもののほか、直接統計上の数字には現われないものをも含めて、かなりの程度に達したものと推定するのが相当であり、そして、それが国民全体の共同利益に及ぼした影響も決して軽微なものではなかつたというべきである。

なお、付言するに、ストライキの国民全体の共同利益に及ぼした影響が軽微であつたか否かは評価ないし比較の問題であるから、四月二五日の全電通のストライキについても、観点や比較の基準の採り方いかんにより、その影響が軽微であつたとも重大であつたともいずれにも見られないわけではない。しかしながら、その業務が高度の公共性を有する公共企業体等の職員のストライキの影響を判断するに当つては、何よりもまず、その影響を直接に受ける国民の立場に立つて考察するのが相当であるところ、前記認定のとおり、当局に重大な打撃を与えるという目的の下に計画され、かつ、その計画に基づき全国の一一拠点、一九事業所において一四四八名以上もの組合員が約半日間その職務を放棄して実施されたストライキの影響が経微なものにすぎなかつたと評価することは、その影響を直接に受ける国民の存在を無視ないし軽視した過小評価というべきであつて、当裁判所は、そのような見解は採用することができない。

5  荻窪局におけるストライキ実施までの経過

(一)  荻窪分会に関するストライキ態勢の確立

(1) 抗弁5の(一)記載の各事実のうち、次の各事実は、当事者間に争いがない。

(イ) (一)の(1)記載の事実のうち、全電通が二月一七日から同月一九日にかけて第五一回中央委員会を開催したこと。

(ロ) (一)の(2)ないし(4)記載の各事実のうち、被告主張のような分会代表者会議及び分会執行委員会が開催されたこと。

(ハ) (一)の(6)記載の事実のうち、荻窪分会が被告主張のような団体交渉、ビラ貼り、職場集会、ビラ配布をしたこと。

(ニ) (一)の(7)記載の事実。

(ホ) (一)の(8)ないし(12)記載の各事実のうち、被告主張のとおりの分会代表者会議、分会執行委員会及び職場集会が開催されたこと。

(ヘ) (一)の(13)記載の事実のうち、被告主張のようなビラ配布及び職場集会が行なわれたこと。

(2) 以上の各事実と、<証拠略>とを総合すれば、抗弁5の(一)の(1)ないし(13)記載の各事実はすべてこれを認めることができるほか、次の各事実を認めることができる。

(イ) 昭和四三年三月一日付の全電通東京おぎくぼ(荻窪分会の機関紙、<証拠略>)の主張欄には、「昨年の第二〇回大会で……要求貫徹のため必要あるときは、ストライキを決行することも決定した。問題は幹部が気迫ある闘いの決意を示しても職場のひとり一人のもつているエネルギーを結集し、すばらしい団結の力とすることができる力をもたなければ、要求の獲得の『カギ』とはならないだろう。……ストライキというものは、それが合法的であろうとなかろうと、まつたく問題ではないときがあることを私たちは知らなければならない。低賃金に押さえつけられますます激しくなる物価の上昇にうちのめされる勤労者が耐えるだけたえて、耐えきれなくなつた時に爆発的に起る憤激の現象がストライキである。……一票投票についても、幹部に言われたから機械的に投票するというのではなくみんなで話し、決め、行動するという原則にたつてネバリ強く討論し、全員が理解と納得によつて一票投票が一〇〇パーセント成功するための体制をぜひ作つていただきたい。」という記載があり、西南支部主催の第五回分会代表者会議直後の時点における荻窪分会執行部のストライキ態勢確立への決意の表明とその態勢を確立するための分会組合員への強い呼びかけがなされている。

(ロ) また、右の全電通東京おぎくぼには、原告相田(副分会長)名義の「今次春闘の意義」という論説欄があり、その締め括り部分には、「要は組合員ひとり一人がしつかりと闘う必要性を頭に入れ、ストライキ実施分会に指定されても整然と闘いぬける体制を確立することが大切です。そのため組合の要求内容を知らない、よくわからないというようなことのないよう積極的に分会役員や職場委員と話し合つていただきたい。分会役員も、あらゆる場を利用して皆さんとの交流に努めます。荻窪報話分会団結して春闘を闘いぬきましよう。」という記載があつて、ストライキ態勢の確立に対する同原告及び分会執行部の強い姿勢が表明されている。

(ハ) 昭和四三年三月五日付の全電通東京せいなん(西南支部の機関紙、<証拠略>)の主張欄には、「……現時点(三月上旬)で果して全組合員にささえられたストライキがただちにできるかというとそれは不可能といえます。それでは今後、どのようにして公社のこのような組合をなめた態度を改めさせるかそれは各職場における闘う体制の確立以外に方法はありません。西南支部は春闘を闘う体制をつくり上げるため、次の諸点を重点としてとりくむこととしました。……」という記載があり、同年三月上旬ごろ当時、少なくとも西南支部管内においては、全組合員の支持を得たストライキを実施することができるか否かについての懸念のあることが表明されるとともに、これを解決するためには各職場におけるストライキ態勢の確立に努力する必要のあることが強調されている。

(ニ) 全電通が昭和四三年四月一日から四日にかけて行なつたストライキ批准の一票投票の批準率(賛成投票の比率)は、全国平均では八二・五パーセントとなつているのに対して、荻窪分会では七四・三パーセントであつたことは、前記のとおり、当事者間に争いがなく、また、同年四月六日付の全電通東京せいなん(<証拠略>)によれば、東京地本全体での批準率は七九・四パーセント、西南支部全体での批準率は八五・五パーセントとなつていることが認められ、荻窪分会での批準率は、西南支部全体での批準率と比較すればもとより、その他の批準率と比較しても、かなり低くなつていることが注目される。そして、この点については、荻窪分会の執行部自体も、同年一〇月五日開催の第五回分会定期大会における一般経過報告の中で、「六八春闘の一票投票は、賛成率七四・四パーセントと全国平均八二・五パーセントを下廻つたことは、執行部のオルグ体制が必ずしも十分でなかつた点があつたとはいえ、組合員の一票投票のもつ重要性に対する認識不足等今後に問題を残しました。」と述べて、反省している。

(ホ) 昭和四三年四月一九日付の全電通東京おぎくぼ(荻窪分会の機関紙、<証拠略>)には、「当分会においても一票投票の結果を大事にしながら全組合員が一丸となつてスト実施が想定される。春闘最終段階の四月二十五日、二十七日に向けて闘うためのこれからの諸行動を一つ一つ積み上げていき一人一人がしつかりと闘う必要性を再認識し、拠点職場に指定された場合は、公社側の圧力をはねのけ一人の脱落者もなく、一糸乱れず整然と闘いぬき、我々の要求を勝ちとろう。分会執行部は全力を上げて頑張る決意です。」という記載があり、四月二五日のストライキが近付いた右時点における荻窪分会執行部の決意の表明と分会組合員に対するストライキ参加への強い呼びかけがなされている。

(ヘ) 四月二四日に原告相田及び原告高倉が荻窪分会の組合員に配布した西南支部作成のビラ(<証拠略>)の裏面に記載されたストライキ当日の注意事項は、「1、拠点職場になるかどうかは当日にならなければわかりません。日勤の組合員は午前八時までに出勤して下さい。2、拠点職場は支部役員、書記がピケをはります。組合員は支部役員の指導に従つて下さい。宿明の人は午前八時三十分に管理者に通告し、持場を離れて下さい。3、拠点以外の職場は午前八時から午前八時三十分まで職場集会を開き、拠点支援の体制をとつて下さい。4、交運共闘も当日ストを予定していますので、定刻までに到着できない組合員は通常の出勤ルートで出勤し、公社側の用意した旅館に泊つたり、公社の指定したターミナル駅に集合したりしないこと。5、正午前に出勤した組合員は拠点の場合は支部役員の指導に従つて下さい。スト破りは絶対にしないこと。6、不明な点は、組合役員にきいて下さい。」というものであつた。

(ト) なお、荻窪分会執行部は、昭和四二年度(昭和四二年七月一日から同四三年六月三〇日までの組合年度)に、職場ニユースの全電通東京おぎくぼを一〇回発行しているが、昭和四三年の春闘期間中には、その臨時号を九回発行しており、また、右春闘期間中、同執行部が分会組合員にビラを配布したのは七回で、延枚数約一一八〇枚に及んでいる。

(3) ところで、右に認定した西南支部主催の第五回ないし第九回分会代表者会議並びに三月四日、一五日、二五日及び四月一六日開催の分会執行委員会における議事の詳細や、これらに出席した原告相田、原告高倉及び原告森崎の具体的な発言内容等については、これを確認するに足りる証拠がない。しかしながら、すでに認定した右会議及び委員会の前後における全電通ないし荻窪分会の活動状況並びに後記認定の荻窪局でのストライキの実施状況に照らして考察すれば、右会議及び委員会においては、西南支部ないし荻窪分会の段階におけるストライキ態勢の確立に関する具体的方策が中心議題として協議されたものと推認すべきであり、また、前記認定の分会役員の任務ないし権限、右原告らの組合役職歴と、弁論の全趣旨に照らして見れば、右原告らは、いずれもその出席した右会議及び委員会において、全電通の計画しているストライキを積極的に支持し推進する立場に立つて協議等を行なつたものと推認するのが相当である。そして、本件の全証拠を検討しても、右の各推認を覆すに足りる証拠は存在しない。

(4) また、<証拠略>によれば、荻窪局の萩久保次長は、昭和四三年一月から同局次長の職にあつた者であつて、局長を補佐して同局職員の日常業務を指揮、監督するとともに、荻窪分会との団体交渉その他の対組合関係の業務を総括する任務及び権限を有していたものであること、そして、同次長は、右任務に関連して、分会側から局舎設備の使用及び同設備での集会(執行委員会、職場集会等)の許可願が提出された場合には、その許否を決定する任務及び権限をも有していたものであつて、荻窪分会ないしその執行部が昭和四三年三月四日から四月二四日までの間に行なつた前記の執行委員会及び職場集会は、いずれも同次長の許可を得て行なわれたものであることが認められる。しかし、<証拠略>によれば、萩久保次長は、分会側から右の許可願が提出された場合には、それに記載された使用日時、使用場所、集会人員及び使用目的から形式的に判断して、局の業務に支障がないと認められる限り、当然にその許可を与えていたもので、その許可に際し、集会の具体的内容等について検討したりそれに干渉したりしていたものでないことが認められる。従つて、右の執行委員会及び職場集会がいずれも萩久保次長の許可を得て行なわれたものであるという理由だけで、その執行委員会及び職場集会で行なわれた原告らの行為がすべて適法とされたり、免責されたりするものでないことはいうまでもない。

(5) そして、以上に認定したところを総合して判断すると、原告相田、原告高倉及び原告森崎を含む荻窪分会執行部の各構成員は、四月二五日実施の荻窪局でのストライキの準備段階において、同分会組合員のストライキに対する意識の統一につき、各自の役職に応じた指導的役割を積極的に果したものであつて、右ストライキの実施につき重要な寄与をしているものと解するのが相当である。

(二)  荻窪局側のストライキ対策

抗弁5の(二)の(1)記載の事実のうち、被告、東京電気通信局長及び萩久保次長がそれぞれ被告主張のような警告をしたことは、当時者間に争いがない。また、右(1)記載の事実のうち、荻窪局の各課長が被告主張のような就労命令を発した(原告大野に対しては、上司の石岡電力課長が四月二三日午前一一時ごろこの命令を告知した。)ことについては、原告らがこれを明らかに争わないので、これを自認したものとみなす。そして、これらの事実と、<証拠略>とを総合すると、抗弁5の(二)の(1)及び(2)記載の各事実はすべてこれを認めることができる。

6  荻窪局におけるストライキの実施

(一)  ストライキ実施の概要

抗弁6の(一)記載の事実のうち、全電通が四月二五日午前六時三〇分に闘争連絡九九号をもつて荻窪局を含む全国の一一拠点、一九事業所を指令五号にいう別途指定する職場に指定し、これらの職場の組合員をして同日始業時から正午までのストライキに突入させたこと、これに伴い、東京地本及び西南支部の役員ら約四〇名が同日午前六時三〇分すぎごろから荻窪局局舎の各出入口や国鉄荻窪駅南口等において出勤して来た組合員にストライキに参加するよう説得し、当日の決起集会の実施場所である全電通会館へ誘導したこと、同日始業時から正午までの間に荻窪局の業務に従事すべき荻窪分会所属の組合員一三〇名のうち計理課所属の一名を除く一二九名が全電通の指令どおりにストライキに参加し、右の間各自の職務を放棄したことは、当事者間に争いがない。そして、以上の各事実と、<証拠略>とを総合すると、抗弁6の(一)記載の事実はすべてこれを認めることができる。

なお、右の各証拠によれば、四月二五日当日東京地本及び西南支部の役員らによつて荻窪局舎付近や国鉄荻窪駅付近で実施されたピケは、主として、荻窪分会所属の組合員に対し同日のストライキに参加するよう説得するために行なわれたものであること、そして、そのピケの態様ないし程度は、いわゆる平和的説得の範囲を超えるほどのものではなく、荻窪分会所属の組合員に対する関係ではもちろん、荻窪局の管理職ら、応援者または一般の来客に対する関係においても、いわゆる実力をもつてそれらの行動の自由を拘束するなどのトラブルは生じなかつたことが認められる。

(二)  原告らのストライキへの参加

抗弁6の(二)記載の事実は、当事者間に争いがない。

(三)  ストライキの実施に対する荻窪局の対応

抗弁6の(三)記載の事実のうち、荻窪局の管理職らが四月二五日のストライキ当日国鉄荻窪駅南口付近において出勤して来た分会組合員に対し被告の指揮下に入るように呼びかけたことは、当事者間に争いがない。そして、この事実と、<証拠略>とを総合すると、抗弁6の(三)記載の事実はすべてこれを認めることができる。

7  荻窪局でのストライキによる業務阻害の状況

(一)  業務阻害の状況

抗弁7の(一)及び(二)記載の各事実のうち、四月二五日の始業時から正午までの間に荻窪局の業務に従事すべき荻窪分会所属の組合員一三〇名のうち計理課所属の一名を除く一二九名がストライキに参加して職務を放棄したこと、右一二九名の所属課別の人員は、受付通信課一〇名、配達課一二名、第一電話営業課及び第二電話営業課合計二六名、計理課及び庶務課合計一〇名であつたことは、当事者間に争いがない。そして、以上の各事実と、<証拠略>とを総合すると、抗弁7の(一)及び(二)記載の各事実のうち、第一線路宅内課、第二線路宅内課、機械課、試験課及び電力課におけるストライキ参加者人員を除くその余の事実は、すべて被告主張のとおりであつたと認めることができる。なお、右の五課におけるストライキ参加者の正確な人員は、本件の全証拠によるもこれを確定しがたいが、<証拠略>によれば、その概数は、第一線路宅内課及び第二線路宅内課合計三八名ないし四〇名、機械課、試験課及び電力課合計三一名ないし三三名であつたと認められる。

(二)  業務阻害の状況に対する全電通側の評価

<証拠略>によれば、全電通側においても、次のとおり、四月二五日のストライキによる荻窪局の業務阻害の状況は顕著であつたと評価していることが認められる。

(1) 昭和四三年四月二六日付の全電通東京せいなん(西南支部の機関紙、<証拠略>)には、「ストライキこぼればなし」として、「荻窪報話局の拠点ストで、公社は拠点がどこかわからずうろうろ。二四日の夜は支部の事務所に、状況をさぐり拠点を聞き出そうと、午前二時頃まで電話で問い合せたり、いそがしいこと。それでもさぐり出せず一睡もできなかつたとか。」、「拠点に当つた荻窪報話局の管理者は、前夜から泊り込んだものの、通信の泊りの組合員が帰つた午前九時から、電報が送られてくるたびにビクビク。『これはどうすればいいの』とか『それははり方が違うよ』とか『そこから切るから間違うんだ』『日時指定はどうするの』『慶弔の用紙はどれ』『これはどうしたらいいんだろう』など、目を白黒しててんてこまい。取材していた記者連から爆笑を買い、ますますあわてること。」、「『電報為替お願いします』とのお客に、『どうすればいいのかわからずに、逆にお客さんからやり方を聞くありさま。また到着した電報は山とつまれていた。」、「都内各支部・分会からの激励電報が着くたびに、管理者はオドオドしながら『組合さん、この電報受取ってくれませんかネ』と蚊の泣くような声。」などと掲載し、荻窪局における業務阻害の状況と管理職らの困惑ぶりを報道している。

(2) 同年四月二七日付の全電通(全電通の機関紙、<証拠略>)には、「拠点の表情」として荻窪分会の状況につき、「……荻窪報話局の各入口には東京地本傘下の専従役職員が、出勤してきた組合員にスト参加を呼びかけ、全電通会館に誘導した。公社もあわてて管理職を動員し、『職員は近くの杉並公会堂に集るように』とマイクでくりかえしたが、組合員から全く無視されてあきらめ顔。それでもカラいばりで業務を始めようとして窓口に座つた管理者たち。ところが来客第一号が『電報為替をお願いします』と現われると、手続きが分らず『だれか代つてくれ』と悲鳴を上げる。頭数だけはそろえたが、やれ『ハンコはどこにある』『この手続きはどうするのか』とうろたえていた。…」と報道している。

三  原告らの各行為と本件各処分

1  本件各処分の根拠規定

(一)  根拠規定の存在

公社法及び公労法に被告が抗弁8の(一)で主張するとおりの各規定があることは、それらの各法文上明らかであり(なお、そのことは、当事者間に争いがない。)、また、被告の就業規則に被告が抗弁8の(二)で主張するとおりの各規定があることは、当事者間に争いがない。

(二)  公社法及び就業規則の各懲戒規定

被告の職員の懲戒処分については、公社法第三三条と就業規則第五九条ないし第六三条との双方に根拠規定が設けられている。しかし、公社法及び就業規則の各性格並びに右各懲戒規定の内容から見て、これらは別個、独立の懲戒規定ではなく、就業規則所定の懲戒規定は、公社法所定の懲戒規定を基礎として、これを念のために反復規定したり、これを細分化ないし具体化したりしたものにすぎないものと解すべきである。

(三)  公労法第一七条第一項及び就業規則第六条各後段の意義

公労法第一七条第一項及びこれを反復した就業規則第六条は、それらの各前段において、被告を含む公共企業体等に勤務する職員ないし被告の職員が(公労法では、更にその職員の組合が)同盟罷業(ストライキ)、怠業その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為、すなわち一切の争議行為をすることを禁止するとともに、それらの各後段において、右職員が(公労法では、更にその職員の組合の組合員及び役員が)右のような争議行為を共謀し、そそのかし、またはあおることを禁止している。そこで、右各後段の意義について一言するに、ここにいう共謀とは、二人以上の者が具体的な違法争議行為の実行について謀議することを指し、そそのかしとは、具体的な違法争議行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その実行の決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを指し、あおりとは、右と同様の目的をもつて、他人に対し、その実行の決意を新たに生じさせたり、すでに生じている決意を助長させたりするような勢いのある刺激を与える行為をすることを指すものと解するのが相当であり、そして、右各後段は、これらの行為が右各前段の禁止する争議行為の重要な原動力となる行為であるが故に、これらの行為をも禁止しているものと解すべきである。

(四)  公労法第一七条第一項と労働組合法第七条第一号

公労法第一七条第一項は、右のとおり、公共企業体等の職員等が一切の争議行為及びその共謀等の行為をすることを禁止している。そこで、右職員等がこの禁止に違反して争議行為等を行なつた場合には、仮にそれが右職員等の属する労働組合の全国大会等の決定やその中央執行委員会等の指令、指示に基づくものであつたとしても、そのためにその違法性が阻却される理由はなく、従つて、その争議行為等は、労働組合法第七条第一号本文にいう労働組合の正当な行為としての評価を受けることもできないものと解すべきである(なお、この点については、後記の、原告らの再抗弁2に対する判断の(四)を参照。)。

2  原告らの各行為の法的評価

(一)  原告相田、原告高倉及び原告森崎の各行為

(1) 右原告ら三名のストライキの指導行為

右原告ら三名が、それぞれ荻窪分会の役員(原告相田は副分会長、原告高倉は昭和四三年三月三一日以前は執行委員、同年四月一日以降は書記長、原告森崎は執行委員)または同分会の代表者として、少なくとも昭和四三年二月二六日以降、全電通の全国大会及び中央委員会の決定並びに中央執行委員会の指令及び指示の下に、西南支部主催の前記各分会代表者会議並びに三月四日、一五日、二五日及び四月一六日開催の前記各分会執行委員会に出席して、西南支部ないし荻窪分会の段階におけるストライキ態勢の確立に関する具体的方策について協議した行為は、公労法第一七条第一項及び就業規則第六条各後段の禁止している争議行為の共謀に該当するというべく、また、右原告ら三名が、それぞれ荻窪分会の役員として、少なくとも同年三月中旬以降、全電通中央執行委員会の指令及び指示並びに前記各分会代表者会議及び各分会執行委員会の決定等に基づき、団体交渉、ビラ貼り、職場集会、ビラ配布その他の大衆行動を指導し、一票投票を実施するなどして、分会組合員に対し、四月二五日のストライキ態勢の確立に努めるよう働きかけるとともに、原告相田及び原告高倉が、四月二五日当日上部組織の役員らとともに、分会組合員に対し、ストライキへの参加を説得するなどした行為は、右各条項後段の禁止している争議行為のそそのかしまたはあおりに該当するというべきである。

そうすると、右原告ら三名の以上の各行為は、公労法第一七条第一項及び就業規則第六条各後段に違反するとともに、労働組合の正当な行為としての評価を受けえないことになるから、公社法第三四条第一項及び就業規則第四条第一項、第五条第二項にも違反することになり、従つて、被告主張のとおり、公社法第三三条第一項第一号、第二号及び就業規則第五九条第一号、第一八号、第一九号所定の各懲戒事由に該当するということができる。

(2) 原告相田及び原告高倉のストライキの実行行為

右原告ら二名が、四月二五日実施の荻窪局でのストライキに参加し、同日始業時(原告相田については、午前八時三〇分、原告高倉については、午前九時)から正午までの間各自の職務を放棄した行為は、公労法第一七条第一項及び就業規則第六条各前段に違反するとともに、労働組合の正当な行為としての評価を受けえないことになるから、公社法第三四条第一項、第二項及び就業規則第四条第一項、第二項、第五条第一項にも違反することになり、従つて、被告主張のとおり、公社法第三三条第一項第一号、第二号及び就業規則第五九条第一号、第一八号所定の各懲戒事由に該当するということができる。

(二)  原告大野の行為

原告大野が、四月二三日に上司である荻窪局石岡電力課長からストライキ当日にも就労するようにとの指示を受けていたにもかかわらず、これに従わないで四月二五日実施の荻窪局でのストライキに参加し、同日始業時(同原告については、午前八時三〇分)から正午までの間その職務を放棄した行為は、公労法第一七条第一項及び就業規則第六条各前段に違反するとともに、労働組合の正当な行為としての評価を受けえないことになるから、公社法第三四条第一項、第二項及び就業規則第四条第一項、第二項、第五条第一項にも違反することになり、従つて、被告主張のとおり、公社法第三三条第一項第一号、第二号及び就業規則第五九条第一号、第三号、第一八号、第一九号所定の各懲戒事由に該当するということができる。

3  本件各処分の発令

(一)  被告が、原告らに対し、別紙原告ら一覧表の「処分発令日」欄記載の日に、同表の「処分内容」欄記載のとおりの本件各処分を発令したことは、前記のとおり、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、<証拠略>によれば、本件各処分発令の際、被告(但し、処分発令担当者は、被告の東京電気通信局長であり、辞令書の交付者は、荻窪局長であつた。)から原告らに交付された各辞令書には、「発令事項」及び「理由」として、次のとおりの記載のあつたことが認められる。

(1) 原告相田及び原告高倉に対する各辞令書

「発令事項」として、「日本電信電話公社法第三三条により懲戒処分として一月間停職する。」との記載があり、「理由」として、「全国電気通信労働組合東京西南支部荻窪電報電話分会副分会長(但し、原告高倉に対する辞令書では、書記長)として、その職務に従事中のところ、昭和四三年四月二五日の荻窪電報電話局における違法な実力行使を指導ないし実行し、公社業務に支障を生ぜしめたことは、日本電信電話公社職員就業規則第五九条第一八号および第一九号に該当する行為であつて、公社職員としてはなはだ不都合であるので、上記のとおり処分する。」との記載がある。

(2) 原告森崎に対する辞令書

「発令事項」として、「日本電信電話公社法第三三条により懲戒処分として一〇月間基本給一〇分の一減ずる。」との記載があり、「理由」として、右(1)の各辞令書の「理由」と同旨(但し、分会役職名は執行委員)の記載がある。

(3) 原告大野に対する辞令書

「発令事項」として、「日本電信電話公社法第三三条により懲戒処分として戒告する。」との記載があり、「理由」として、「昭和四三年四月二五日荻窪電報電話局における違法な実力行使に際し就労するよう指示したにもかかわらず、その指示に従わなかつたことは、日本電信電話公社職員就業規則第五九条第一号、第三号、第一八号および第一九号に該当する行為であつて、公社職員としてはなはだ不都合であるので、上記のとおり処分する。」との記載がある。

(三)  そして、原告らに交付された右各辞令書の「理由」欄の記載の中には、前記の各懲戒規定との関係で、やや不明確な表現がないわけではないが、前記認定の事実関係に照合すればそこにいう「違法な実力行使」とは、公労法第一七条第一項及び就業規則第六条各前段の禁止する争議行為、特に同盟罷業(ストライキ)を意味し、その「指導」とは、右各条項各後段の禁止する争議行為の共謀、そそのかしまたはあおりを意味するものであり、また、原告相田及び原告高倉に対する各辞令書における「指導ないし実行し」とは、指導するとともに、自らも実行したことを意味し、原告森崎に対する辞令書における「指導ないし実行し」とは、単に指導したことのみを意味するものと解するのが相当である。もつとも、原告森崎に対する辞令書における「指導ないし実行し」の表現を右のように解することは無理であるとの反対もあろうが、日本語の「ないし」という表現には「または」という意味もあるから、これを右のように解してもあえて違法とするに足りない。

(四)  また、原告相田、原告高倉及び原告森崎に対する各辞令書の「理由」欄の記載の中には、被告が本訴において右原告らの懲戒処分該当条項として主張している就業規則第五九条第一号が脱落しているが、就業規則の同条号の規定は公社法第三三条第一項第一号と同旨であり、かつ、右各辞令書の「発令事項」欄の記載の中には懲戒処分の根拠規定として公社法第三三条が挙示されているから、右記載の脱落は右原告らに対する処分の効力に影響を及ぼすほどのものではない。

(五)  そうすると、本件各処分は、その発令の形式においても、特にこれを違法、無効とすべき瑕疵はないということができる。

4  本件各処分の効力

以上のとおりであつて、本件各処分は、実質的にも、形式的にも、その理由があり、原告らが再抗弁で主張する各無効事由が認められない限り、その効力を有するものというべきである。

そこで、以下、原告らの再抗弁について判断する。

四  原告らの再抗弁に対する判断

1  公労法第一七条第一項と憲法第二八条

原告らは、まず、被告を含む公共企業体等に勤務する職員の争議行為等を一律全面的に禁止している公労法第一七条第一項は、憲法第二八条に違反し、無効であると主張する。

しかしながら、〈1〉被告を含む公共企業体等に勤務する職員は、非現業の国家公務員と同様、憲法上の基本原則である議会制民主主義の原則(憲法第四一条、第八三条等)との関係で、その勤務条件の決定につき国民全体の意思を代表する国会の判断を待たざるをえない特殊な地位に置かれており、そのため、これらの職員は、労使間の交渉による勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権及びその手段である争議権を、国会の意思と無関係に、憲法上当然に主張することはできない立場にあること、〈2〉公共企業体等の営む事業は、私企業のように利潤の追求を本来の目的とするものではなくして、国の公共的な政策を遂行するものであり、かつ、その労使関係にはいわゆる市場の抑制力が欠如しているから、その職員の争議権は、適正な勤務条件を決定する機能を十分に果すことができず、競合する国民の諸要求を公平に調整すべき行政当局や国会等に対する一方的な圧力となるおそれがあること、〈3〉公共企業体等の職員は、実質的には、国民全体に対して労務を提供する義務を負うものであるとともに、その職務は高度の公共性を有するから、その争議行為は、国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、または、そのおそれがあること、〈4〉更に、公共企業体等の職員については、法律により、その身分、給与等に関する特別の配慮がなされているとともに、これらの職員の勤務条件に関する当局との紛争については、公労法が、争議権を否定する代償として、その紛争解決のためにあつせん、調停及び仲裁を行なう公労委を設置するなどの措置を講じていることを考慮すれば、国会が、労働者をも含めた国民全体の共同利益を擁護する見地から、必要やむをえないものとして、公共企業体等の職員の争議行為等を全面的に禁止しても、それが憲法第二八条に違反するということはできず、従つて、現行の公労法第一七条第一項も憲法第二八条に違反するものでないことは、すでに最高裁判所の判例によつて確定されているところであり(昭和五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁等参照。なお、理由づけは異なるが、公労法第一七条第一項が憲法第二八条に違反するものでないという結論自体は、昭和三〇年六月二二日大法廷判決・刑集九巻八号一一八九頁、同四一年一〇月二六日大法廷判決・刑集二〇巻八号九〇一頁等を通じ一貫して維持されている。)、そして、当裁判所も、この見解に従うのが相当と解する。

もとより、被告を含む公共企業体等に勤務する職員についても、その労働条件の維持、改善及びその地位の向上に万全の配慮をなすべき必要のあることは当然であり、国会が右職員に関する労働立法をなすに当つても、可能な限り、憲法第二八条の精神を尊重しなければならないものというべきである。しかしながら、前記のとおり、憲法上の基本原則である議会制民主主義の原則により、右職員の勤務条件に関する最終決定権が国会に委ねられている以上、現行の公労法第一七条第一項が立法政策上相当なものであるか否か、また、これを改正する必要があるとすればいかに改正すべきかなどの問題は、国会自体の決定すべき問題であつて、司法機関たる裁判所の介入するのを相当としない問題であるといわなければならない。

従つて、原告らが再抗弁1において主張するところは、立法論としては有意義であるとしても、本判決においてはこれを採用することができない。

2  公労法第一七条第一項違反の争議行為と懲戒処分

(一)  公社法第三三条によつて被告に認められる懲戒権は、被告企業の経営秩序を維持するために付与された権利ではあるが、被告の経営している公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務は、前記認定のとおり、政治、経済、文化その他のあらゆる領域にわたり情報の迅速、正確、安全な伝達ないし交換の要求される現代において、極めて重要な役割を果しているのであつて、高度の公共性を有するものであるところ、被告は、このような性質の業務を「合理的且つ能率的」に経営することにより、「公共の福祉を増進することを目的として」設立された法人である(公社法第一条)から、被告の職員が右目的を阻害するような違法行為を行なつた場合には、被告企業の経営秩序に違反する行為を行なつたものとして、公社法第三三条及び同条の規定を細分化ないし具体化したものと認められる就業規則第五九条により、その職員に対して懲戒処分を課することができるものというべきである。

(二)  ところで、公労法第一七条第一項は、国民全体の共同利益を保障して、公共の福祉を増進する見地から、被告を含む公共企業体等に勤務する職員の争議行為等を禁止しており、そして、同条項が憲法第二八条に違反するものでないことは、前述したとおりであるから、被告の職員が公労法第一七条第一項及び同条項と同旨の就業規則第六条に違反する行為を行なつた場合には、被告の職員の服務基準を定める公社法第三四条並びに同条の規定を反復しまたは具体化したものと認められる就業規則第四条及び第五条に違反し、被告企業の経営秩序に違反したものとして、公社法第三三条及び就業規則第五九条により懲戒処分を受けてやむをえないものというべきである。なお、争議行為は労働者の集団的行動ではあるが、その集団性のために、これに関与した労働者個人の行為としての面が当然に失われるものではないから、違法な争議行為に関与して服務規律に違反した者が懲戒責任を免れえないことも明らかである(最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。従つて、公労法第一七条第一項に違反する争議行為等を行なつた者に対しては、被告が懲戒処分を課することは許されないという原告らの主張は、採用することができない。

(三)  また、原告らは、懲戒権の保護法益である経営秩序は、労働者が使用者との労働契約に基づきその労働力を使用者の指揮、監督下に置いている場合にはじめて問題になるのであつて、労働者が、争議行為により、労働契約上の義務を免れ、使用者の指揮、監督下から離脱している場合には問題になる余地がないから、公労法第一七条第一項違反の争議行為等についても、被告はその懲戒権を行使することができないと主張している。しかしながら、公社法第三四条第一項は、被告の職員の服務基準として、「職員は、その職務を遂行するについて、誠実に法令………に従わなければならない。」と規定しており、この「法令」の中に公労法第一七条第一項も含まれることは当然というべきところ、公労法第一七条第一項は、被告の職員が争議行為により被告の指揮、監督下から離脱すること自体を禁止しているのであるから、被告の職員が同条項違反の争議行為等を行なつた場合には、右服務基準にも違反することになり、従つて、公社法第三三条第一項第一号及び第二号所定の懲戒事由に該当することは明らかである。そうすると、原告らの右の主張も採用することができないものといわなければならない。

(四)  更に、公労法第三条第一項が労働組合法第七条第一号本文の適用を除外していないことを根拠として、公労法第一七条第一項に違反する争議行為等の中にも、なお労働組合法第七条第一号本文にいう労働組合の正当な行為とそうでない行為とがあるとして、そのうちの正当な行為については、公社法第三三条等による懲戒処分を課することができないという見解もあり、原告らも、この見解に基づいた主張をしている。しかしながら、公労法第三条第一項によれば、公共企業体等の職員に関する労働関係については、公労法の定めるところにより、同法に定めのないものに限り労働組合法の定めるところによるとされているところ、右職員の争議行為等については公労法第一七条第一項により一切の行為が禁止されているのであるから、その争議行為等について更に労働組合法第七条第一号本文を適用する余地はないものというべきであり、従つて、原告らの右主張は採用することができない(前掲最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決参照。)。従つてまた、公社法第三六条、公労法第一八条、就業規則第五六条、第五九条等の法文を根拠として、公労法第一七条第一項または就業規則第六条に違反する行為をした職員に対しては、通常解雇をすることができるのみで、懲戒処分を課することはできないという原告らの主張も、その実質的理由がなく、採用することができない(最高裁判所昭和四三年一二月二四日第三小法廷判決・民集二二巻一三号三〇五〇頁参照。)。

3  不当労働行為の成否

再抗弁3記載の各事実のうち、昭和四三年四月二五日に全電通が全国の一一拠点、一九事業所において始業時から正午までのストライキを実施したこと、右ストライキ実施の当時原告らが全電通所属の組合員であり、原告相田、原告高倉及び原告森崎が荻窪分会の役員であつたこと、右ストライキの実施に関し、被告が原告らを含む一八三二名の組合員に対し懲戒処分を行なつたこと、その被処分者の中に五一〇名の組合役員が含まれており、その組合役員に対する処分内容が解雇一七名、停職四〇三名、減給八八名、戒告二名となつていることは、いずれも当事者間に争いがない。そして、前記認定の原告らの組合役職歴に照らして考えれば、原告らがいずれも昭和四三年以前から熱心な組合活動家であり、全電通ないし荻窪分会所属の組合員の労働条件の改善等を求めて平素から活発な組合活動を行なつていたであろうことは推認するに難くない。

しかしながら、本件各処分は昭和四三年四月二五日実施の荻窪局でのストライキに関する原告らの指導行為ないし実行行為が公社法第三三条及び就業規則第五九条所定の懲戒処分事由に該当することを理由としてなされたものであることは、前記認定のとおりである反面、本件の全証拠によるも、右理由は単なる口実にすぎないものであつて、被告が本件各処分をなした真の意図は、原告らが組合活動家であることや原告らが正当な組合活動を行なつたことを理由として原告らに不利益を加えることにあつたとか、全電通の組織の拡大、闘争力の強化を嫌悪してこれを弱体化しようとすることにあつたとかの事実を積極的に認定するに足りる証拠はない。

そうすると、本件各処分が公労法第三条第一項、労働組合法第七条第一号または第三号所定の不当労働行為であるという原告らの主張は、その理由がなく、採用することができない。

4  懲戒権の濫用の有無

(一)  原告らは、最後に、本件各処分は被告がその懲戒権を濫用してなしたものであるから無効であると主張するので、以下、その主張の当否について判断する。

すでに再抗弁2に対する判断において述べたとおり、公社法第三三条によつて被告に認められる懲戒権は、被告企業の経営秩序を維持するために付与された権利ではあるが、被告の経営している公衆電気通信業務及びこれに附帯する業務は高度の公共性を有するものであるところ、被告は、このような性質の業務を「合理的且つ能率的」に経営することにより、「公共の福祉を増進することを目的として」設立された法人である(公社法第一条)ことに鑑みると、被告の職員が右目的を阻害するような違法行為を行なつた場合には、被告企業の経営秩序に違反する行為を行なつたものとして、公社法第三三条及び同条の規定を細分化ないし具体化したものと認められる就業規則第五九条により、その職員に対して懲戒処分を課することができるものというべきである。そして、被告は、その職員に右各法条所定の懲戒事由に該当する違法行為があると認められる場合には、その行為の動機、目的、性質、態様、結果、影響等のほか、その職員の右違法行為の前後における態度、行動、選択する懲戒処分が他の職員や社会一般に与える効果、影響等、諸般の事情を総合勘案したうえ、その職員に対し懲戒処分を行なうべきか否か、また、懲戒処分を行なう場合にはいかなる処分を選択すべきかを判断、決定すべきであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合勘案してなされるべきものである以上、平素から被告公社内の事情に通暁し、その職員の指揮、監督の衝に当つている被告当局者の裁量に任されているものと解すべきである。従つて、被告がその裁量権を行使して懲戒処分を行なつた場合には、その処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものであつて、裁量権を付与された目的を逸脱し、これを濫用したと認められるときでない限り、その懲戒処分は違法とはならないものと解すべきである。

そこで、以上の見地に立つて、本件各処分について見るに、原告らが公社法第三三条及び就業規則第五九条各所定の懲戒事由に該当する違法行為をしたと認められることは前記の認定判断のとおりであるところ、これに、本件各処分の前提となつた前記認定の諸般の事実関係、特に、被告の業務は高度の公共性を有すること、四月二五日の全電通のストライキは当初から公労法、公社法及び就業規則の関係諸規定に正面から違反することを十分に承知で計画され、準備されたものであるとともに、被告側の再三にわたる警告及び就労命令にあえて抵抗して実行されたものであること、右ストライキは、労使間の重要問題は団体交渉によつて解決しようという、いわゆる六・二五了解事項の合意の破棄を目差すストライキであるとともに、公労委による調停手続の進行中におけるストライキであること、右ストライキは、拠点ストライキではあつたが、全国の一一拠点、一九事業所において、一四四八名以上もの全電通組合員が参加して行なつた大規模なストライキであつたのみならず、陽動作戦を伴う抜き打ちストライキとしての性格をも有するものであつて、被告の業務の公共性やストライキの影響を直接に受ける国民の存在を無視ないし軽視するような方法で行なわれたものであること、そして、右ストライキが国民全体の共同利益に及ぼした影響も決して軽微なものではなかつたことなどの事実関係と、右ストライキの準備ないし実施の各段階において原告らの果した各役割とを総合して考察すれば、被告の行なつた本件各処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものであつて、裁量権を付与された目的を逸脱し、これを濫用したものであると認めることはできない。

(二)  ところで、原告らは、再抗弁4の(二)において、本件各処分により原告らが経済的、精神的その他の不利益、苦痛を受けることを理由に、本件各処分が甚だ苛酷なものであると主張しており、そして、その主張事実のうち、停職及び減給の懲戒処分はそれ自体所定の経済的不利益を伴うこと、原告らは本件各処分を受けたことにより定期昇給の減額措置を受け、その結果その後の夏季手当、年末手当等の臨時手当、退職金、年金等の額についても経済的不利益を受けること、原告らが本件各処分を受けたことは、原告らの勤務に関する記録や給与に関する記録に記載され、人事管理の資料となることは、被告もこれを認めている。

しかしながら、公社法第三三条及び就業規則第五九条による停職及び減給の懲戒処分それ自体に経済的不利益が伴うことは、当初から右各法条の明定するところであるのみならず、このような経済的不利益は、その他の法律等(例えば、国家公務員に関する人事院規則一二―〇、日本国有鉄道の職員に関する日本国有鉄道法第三一条等)による停職及び減給の懲戒処分にも共通して見られる不利益である。そして、本件各処分による定期昇給の減額措置及びその結果生じるその後の臨時手当、退職金、年金等の額についての不利益や、本件各処分の勤務記録等への記載は、本件各処分自体の効果、すなわちその本来的効果ではないのみならず、<証拠略>によれば、これらの措置ないし不利益は、本件各処分の発令以前から懲戒処分を受けた被告の職員全般に等しく適用されている人事制度ないし給与制度上の措置ないし不利益にすぎないのであつて、原告らまたは原告らを含む四月二五日実施のストライキ関係者に対してのみ適用されたものではないことが認められる。しかも、四月二五日のストライキの実施以前に、被告、東京電気通信局長及び荻窪局の萩久保次長から、全電通ないし荻窪分会の組合員がストライキを行なつた場合には、戒告以上の厳重な処分を行なう旨の警告が繰り返しなされていたことは、前記のとおり当事者間に争いがないから、原告らも、少なくとも荻窪局においてストライキが実施された場合には、右のような不利益等を伴う懲戒処分を受けるかもしれないことは十分に覚悟していたものというべきである。

そうすると、本件各処分に原告らの主張するとおりの本来的及び派生的不利益が伴うとしても、原告らに前記のとおりの懲戒事由が認められる以上、これらの処分をもつて社会観念上著しく妥当性を欠くものであつて、懲戒権を濫用してなされたものであるということはできない。従つて、原告らの右主張は採用することができない。

(三)  また、原告らは、再抗弁4の(三)において、本件各処分を含む四月二五日のストライキに関する大量処分は形式的、画一的基準に基づく一律、機械的な処分であり、特に被処分者の組合における役職が処分基準の決定的要素となつていることなどを挙げて、本件各処分は不当なものであると主張している。そして、四月二五日のストライキ実施の拠点に指定された分会の組合員に対する被告側の処分が、分会長に対しては停職三か月、副分会長及び書記長に対しては停職一か月、執行委員に対しては大部分が減給一〇か月間基本給の各一〇分の一、一般の組合員に対しては戒告となつていることは、当事者間に争いがなく、また、<証拠略>によれば、右ストライキに関する被告側の処分は、地方本部及び支部の段階においても、被処分者の組合における役職に応じて、その軽重が決定されているように認められる。

しかしながら、全電通は、中央本部、地方本部、支部及び分会の上下四段階の組織によつて構成されており、そのそれぞれに議決機関、執行機関等が置かれていること、これらの機関を構成する各段階の役員はそれぞれの役職に応じた任務と権限を有していること、全電通の行なつた四月二五日のストライキは、全電通の全国大会及び中央委員会の決定並びに中央執行委員会の数次にわたる指令及び指示の下に、右のような組織体である全電通に属する役員及び一般組合員がそれぞれの立場に応じて相協力して行なつたものであること、そして、右ストライキは、全国の一一拠点、一九事業所において殆ど同様の態様で実施されていることは、前記認定のとおりであるし、また、以上の事実関係からすれば、特段の反証(例えば、特定の役員は、ストライキの実施に反対して、これを中止させるべく努力していたとか、特定の役員は、ストライキの準備及び実施の期間中病休等の状態にあつて、ストライキの指導ないし実行には関与していないなどの事実関係の立証)のない限り、全電通の各段階の組織の各役員は、四月二五日のストライキの準備及び実施について、各自の役職に応じた指導的役割を果し、応分の寄与をしたものと推認するのが相当である。そして、本件訴訟においては、原告らについても、また、その他の全電通の各役員についても、右推認を左右するに足りる証拠は全く提出されていない(のみならず、原告相田、原告高倉及び原告森崎について見れば、同原告らが四月二五日の荻窪局でのストライキの準備段階において各自の役職に応じた指導的役割を積極的に果していることは、前記認定のとおりである。)。そうすると、被告側が、四月二五日の全電通のストライキに関する職員の懲戒処分を行なうに当り、そのストライキ実施の当時における被処分者の全電通における役職を一つの重要な基準として、処分内容を決定したとしても、それはやむをえないことであつて、これをもつて格別不当ということはできないものと解すべきである。

なお、原告森崎が四月二五日のストライキ自体には参加しておらず、ストライキによる職務放棄をしていないことは、前記のとおり当事者間に争いがないが、ストライキに関する懲戒処分においては、単なる欠勤ないし遅刻の責任が問われるものではないのみならず、同原告がストライキ自体に参加しなかつたのは、同原告の四月二五日の勤務時間がたまたま同日正午から午後八時までの中勤服務となつていたためにすぎず、同原告がストライキに参加しえたにもかかわらず、これに反対して参加しなかつたというものではないから、同原告について右のようなストライキ不参加の事実があるとしても、それだけで同原告の責任が軽減され、本件処分が不当となるものではない。

従つて、原告らの右主張は、その理由がなく、採用することができない。

(四)  原告らは、再抗弁4の(四)において、四月二五日のストライキ実施までの間の分会代表者会議への出席、分会執行委員会の開催、出席、職場集会の開催、ビラ貼り、ビラ配布等の行為は、ストライキの拠点分会の役員も、ストライキの拠点分会とならなかつた分会の役員も全く同様に行なつているのにかかわらず、被告側が前者についてのみ処分を行ない、後者について処分を行なわなかつたことを理由として、本件各処分、特に原告相田、原告高倉及び原告森崎に対する処分は恣意的、差別的な処分であると主張している。そして、四月二五日のストライキに関し、ストライキの拠点分会以外の分会の役員が処分されていないことは、当事者に争いがない。

そこで、考えるに、四月二五日のストライキが全電通全体の組織的行動として行なわれたものであること、拠点職場ないし拠点分会の指定自体は、分会ないしその役員の意思や希望とは直接関係なく、全電通中央執行委員会の闘争連絡九九号により一方的に行なわれたものであることなどからすると、ストライキの拠点分会の役員も、ストライキの拠点分会とならなかつた分会の役員も、それらの役員がストライキの準備段階において同様の指導的行為(ストライキの共謀、そそのかしまたはあおりに該当する行為)を行なつた場合には、その指導的行為自体についての責任は軽重をつけがたいものであるといわなければならない。

しかしながら、公社法第三三条及び就業規則第五九条による懲戒処分は、先にも述べたとおり、職員の違法行為の存在のみを問題にするだけではなく、その行為の及ぼす結果、その行為後の行動、態度や、更に選択する処分が他の職員及び社会に与える効果、影響など諸般の事情を総合勘案して行なわれるのであり、そして、その決定、選択は被告の裁量に任されているのであるから、被告がストライキの拠点分会の役員についてのみ処分を行ない、ストライキの拠点分会とならなかつた分会の役員について処分を行なわなかつたとしても、それだけで、ストライキの拠点分会の役員について行なつた処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものであつて、被告が裁量権を付与された目的を逸脱し、これを濫用したものであるということはできない。従つて、原告らの右主張は理由がない。

(五)  更に、原告らは、再抗弁4の(五)において、本件各処分を含む昭和四三年四月二五日のストライキに関する処分は前後に例のないほどの大量かつ苛酷な処分であつたから、本件各処分は不当である旨主張している。

そこで、検討するに、全電通のストライキ等に伴う被告の処分の内容は年度により変遷があることは、被告も認めるところであり、<証拠略>によれば、全電通では、昭和三二年ごろから、春闘、秋闘その他における闘争手段として、いずれも公労法第一七条第一項に違反すると認められる時間内職場集会またはストライキを行なつていること(もつとも、年度により、その回数、拠点数、規模等にかなりの差異があるし、また、昭和三七年、同四一、四二年等のように、これらの闘争手段の用いられなかつた年もある。)、これに対する被告側の処分としては、全電通の分会段階の役員ないし一般組合員に関する限り、当初は、公社法第三三条所定の懲戒処分よりも軽い訓告、文書注意に止まつていたが、昭和三八年には、減給、戒告の懲戒処分が行なわれ、昭和四〇年から同四七年までは、更により重い停職の懲戒処分も加つたこと、しかし、昭和四八年以降においては、分会段階の役員ないし一般組合員のみならず、中央本部、地方本部、支部の役員に対する処分も次第に軽くなり、昭和五〇、五一年においては、分会段階の役員ないし一般組合員に関しては、懲戒処分は行なわれず、訓告、文書注意がなされるに止つていることが認められる。

しかしながら、右各証拠によるも、昭和四三年四月二五日のストライキに関する処分が前後に例を見ないほどの大量かつ苛酷な処分であつたとは認められない。のみならず、懲戒事由に該当する違法行為を行なつた職員に対して被告が懲戒処分をするか否か、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかは、前記のとおり、その行為の動機、目的、性質、態様、結果、影響等のほかに、諸般の広範な事情を総合勘案して決定すべきものであるとともに、その決定に当つては、その決定時点における労使関係、政治ないし経済情勢、国民感情等も当然に反映され考慮されるものであるから、右に認定の処分内容の変遷だけを見て、本件各処分が裁量権を濫用した不当な処分であつたと断定することはできない。従つて、原告らの右主張は採用することができない。

(六)  原告らは、再抗弁4の(六)において、本件各処分は全電通の団結権そのものの否認につながるとして、いろいろ主張しているが、全電通の行なつた四月二五日のストライキが労働組合法第七条第一号本文にいう労働組合の正当な行為ということができないことは、先に述べたとおりであるし、前記認定の右ストライキに関する諸般の事実関係から判断すれば、原告らの前記各行為の違法性が極めて軽微であつたといえないことも明らかである。更に、原告らの右各行為が全電通の全国大会及び中央委員会の決定や、中央報行委員会の指令及び指示に従つたものであるとしても、それらの決定や指令及び指示が公労法第一七条第一項をはじめ、公社及び就業規則の前記各条項に違反するものであり、しかも、原告らがそのことを十分に承知でこれらの決定や指令及び指示に従つたものである以上、これらに従つたことの故に原告らの各行為の違法性ないし責任が特別に軽減されるものでないこともいうまでもない。そして、その他に、本件各処分が全電通の団結権そのものを否認する趣旨のものであつたと認めるべき証拠はない。従つて、原告らの右主張は理由がない。

(七)  なお、その他に、本件各処分が社会観念上著しく妥当性を欠くものであつて、被告が裁量権を付与された目的を逸脱し、これを濫用したものであることを認めるに足りる証拠は存在しない。従つて、原告らの懲戒権濫用の主張は結局、採用することができない。

五  結論

以上の次第であつて、本件各処分はいずれもその理由があり、かつ、それらを違法、無効とすべき事由は認められないから、それらが無効であることの確認を求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないといわなければならない。よつて原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村長生 星野雅紀 石井宏治)

原告ら一覧表<略>

拠点局所一覧表<略>

就業規則抜粋<略>

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